本校では、2018年度からの3年間に渡って子どもたちの学習意欲の向上を目指した研究推進に取り組んできた。当初の子どもたちの姿を振り返ると、他者と関わり合って授業や学校生活に取り組むことへの抵抗感を抱いている様子、ありのままの自分や他者を好意的に認めることが苦手で、互いの違いに寛容になれない態度、評価問題の結果等「見える」学力に伸び悩み、学習への意欲を失っている姿が思い出される。そのような実態を教師全員で受け止め、子どもたちが他者とつながりながら学習に取り組むことに楽しみを抱き、毎時間の学びに価値を見いだすことができるような授業づくりの実践を推進してきた。
 その結果、子どもたちが新しい課題に対して粘り強く取り組み、自分の考えをすすんで表現しようとする姿が少しずつ見られるようになってきた。日々の授業での「振り返り」の記述の中には、「友達との考えや見方の違いに気づけて楽しかった。ペアやグループでの学習をもっとやってみたい」と、他者とつながりを持って物事に取り組むことの良さを実感し、自分たちで学びを進めようとする態度を窺えることもあった。改善すべき点は数多くあろうが、子どもたちが取り組みたいと感じるような課題を設定したり、子どもたちが考えを交流する場面を単元の中に位置づけたりと、教師それぞれが考え、悩みながら授業づくりに取り組んできたことが、子どもたちの姿につながったと捉えている。
  しかしながら、日々の授業や各種学力調査の結果等から、「知識・理解」の定着が不十分であることや、自分の考えを持ち、表現する力に依然として課題があることが見られている。子どもたちが自己との関わりを見いだすことができた内容は、知識や技能として根付く。獲得したそれらを駆動しながら問題解決を行うことで知識や技能の獲得が推進される。子どもと学習材との距離を見取って授業を構成すること、子どもたちが自己の考えを持ち、表現する場面を単元の中で明確に設定していくことに継続して取り組んでいく必要がある。
  今年度は、「志高く、自己を磨き、仲間と共に高め合う生徒の育成」という学校教育目標の下、子どもたちの実態を踏まえて「自ら考え、探究する生徒」をめざす生徒像の一つとして設定している。探究の過程を子どもたちが実践できるようにするには、子どもたちと学習材との出会い方を工夫し、合意形成を図りながら子どもたち自身で課題を立てる活動を単元の中に位置づけるなど、これまで教師主導になりがちであった授業プロセスを子どもたちに委ねていくことが肝要である。また、子どもたちが見通しを持って課題解決に取り組めるようなツールを準備・提供していくことや、探究活動で見出した結果や気づきを多様な形で他者に表現する活動を組み入れるなど、教師は学びのコーディネーターに徹することが必要であると考えている。
  子どもたちがこれからの時代を生き抜くために必要な資質・能力を身に付け、生涯に渡って能動的に学び続けることができるようになれることを目指し、日々の授業実践に取り組んでいきたい。

 


(1)考え、表現する場を単元の中に位置づける

 教師が知識・技能を一方向的に教授するのではなく、子どもが能動的に学習材に向き合い、課題解決に挑戦していくことができるようなプロセスを単元の中に位置づける。特に、以下の場における教師のコーディネートの工夫について検討していきたい

 ①学習材との出会い:子どもたちが自分の生活との接点を見いだせるように学習材を提案する
 ②課題設定:子ども自身が学習課題を設定する時間と場を設定する
 ③考え、表現する:課題解決に伴う思考の結果を多様な方法で表現し、交流する場を設定する
 ④学習過程を振り返る:成果を検証し、次に向けて新たな課題を見出す


 ①~④の過程を踏まえたつながりのある学習活動を単元の中や単元の間に確実に設定し、子どもたちがスパイラルに探究的な学習活動を経験できるように授業を展開させていく。
 また、本校では昨年度末よりタブレット端末が全ての子どもと教職員に1台ずつ貸与されるようになった。タブレットを常に携帯できることで、インターネットを使った情報収集や各種ソフトを活用してインタラクティブなやりとりを行うことが活発に実施されるようになった。ICT機器を有効に活用することで、子どもたちがこれまで以上に思考の幅を広げ、多様な方法で表現し、互いの表現を評価し合うことが可能になると考えている。機器を使うことを目的にするのではなく、探究のツールとして有効利用し、子どもたちの学びの意欲の向上につなげていきたい。


(2)授業研究会を実施し、授業の質を高める

 本校では、異教科・異学年の担当者で構成された小グループを単位として授業研究に取り組んでいる。教材研究の方法や子どもとの関わり方など、授業を行う上で基礎的な要素を多面・多角的に学び取ることができる。また、様々な教科の参観を通じて子どもを多面的に見ることで、子どもの良さや可能性に教師自身が気づくことができる。しかし、昨年度は指導主事訪問や各学期に設定した道徳の公開授業のみの授業研究会となってしまい、互いの授業を参観して話し合う機会が不足してしまった。そこで今年度は、「授業公開週間」を設け、全ての教師が授業を公開し、授業研究を通じて教師全体の力量の向上に図りたいと考えている。
 授業研究会では、子どもの姿や学びの事実を基に授業を省察し、教師各自の学びにフィードバックしていくことを目的にしている。子どもの姿を中心に授業について語り合うことで、全ての教師が1つの授業研究会を通じて自分の実践を省察し、更新することができる。若手教員とベテランの教員が一体となって学び合うことは、子どもたちに前向きな影響を与えることもできるだろう。「開かれた教室」を目指し、教師が子どもと共に学び合う空間をつくりだしていく。


(3)道徳科の授業を中心として、対話を重視した道徳教育に取り組む

 これからの時代を生きる子どもたちには、様々な価値観や言語、文化を背景とする人々と相互に尊重し合いながら生きていくことが今まで以上に求められるようになる。本校においても、教科等の学習や学校行事の実践など学校教育全体を通じて、いろいろな対象との対話を重視し、道徳性を育成することに努めてきた。
  各学期には全ての学年で授業研究会を実施し、担任のみならず全ての教員で授業実践に関わることに取り組んでいる。今年度も研究部や学年部会が協働して授業研究や研修に取り組み、組織全体で道徳科の実践を充実させていきたい。また、昨年度から、「道徳ノート」の実践に全校で取り組んでいる。このノートは、毎時間の道徳科の授業や特別活動等において道徳的な課題について考え、話し合いを行った際、子どもたちがノートに自分や友達の考えを綴っていくノートである。子どもたちが学びの軌跡を捉え直したり、自己の成長を実感したりすることができる有用なツールであるため、今年度も継続してノートの活用について検討していきたい。